スーパーの袋をテーブルに置いたまま、しばらく動けなくなる夜はありませんか。
お惣菜のパックを開けながら、頭のどこかで声がします。「また作れなかった」「今日もコンビニだ」「こんなんじゃダメだ」。
誰に言われたわけでもないのに、自分で自分を裁いてしまう。食べ終わったあとに残るのは、満腹感よりも罪悪感のほうが大きい。
もしあなたが今、そんな夜を繰り返しているなら、この記事を最後まで読んでみてください。
自分を責めてしまう、あなたへ
消えない罪悪感
仕事帰りにコンビニやスーパーのお惣菜を買う。冷凍食品をレンジで温める。カップ麺にお湯を注ぐ。
それ自体は何も悪くありません。疲れた体で帰ってきて、とにかく何か食べようとしている。その行動は十分に「自分を養おうとしている」行為のはずです。
なのに、食べ終わった瞬間から始まる「ひとり反省会」。
「明日こそは自炊する」「今週末こそ作り置きをする」「ちゃんとした大人なら、このくらいできるはず」。
その約束を破るたびに、「やっぱり自分はダメだ」という気持ちが少しずつ積み重なっていきます。
「もっと良くなりたい」からこそ、苦しい
ここで一つ、あなたに伝えたいことがあります。
自分を責めているということは、「もっとちゃんとしたい」と心の底から思っている証拠です。 食事なんてどうでもいいと投げ出している人は、そもそも罪悪感を抱きません。
「自炊できない自分が情けない」。その言葉の裏には、「自分の体を大事にしたい」「健康でいたい」「ちゃんと暮らしたい」という切実な願いがあります。
苦しいのは、自分を諦めていないから。
その気持ちは、責められるべきものではなく、むしろ誇っていいものです。
私たちを縛る「ちゃんとした料理」という呪い
一汁三菜じゃなくても、大丈夫
「自炊」と聞いて、あなたはどんな映像を思い浮かべますか。
主菜に副菜が二品、味噌汁にご飯。丁寧に盛り付けられた和食の食卓。SNSに並ぶ、彩り豊かなお弁当の写真。料理系のアカウントが発信する「15分で完成!」という投稿。
そういうものが「ふつう」だと思い込んでいませんか。
あの映像は、撮影のためにベストな一瞬を切り取ったものです。毎日、毎食あの状態を維持している人はほとんどいません。
実際、厚生労働省の「国民健康・栄養調査」でも、20~30代の単身世帯では外食や中食(惣菜・弁当)の利用頻度が高く、毎日自炊している人のほうがむしろ少数派です。
あなたは「ふつう」ができていないのではありません。「ふつう」の基準が歪んでいるだけです。
完璧主義が、「次の一歩」を重くする
心理学では、完璧主義には大きく2つのタイプがあるとされています。
ひとつは「自分に対して高い基準を持ち、それに向かって努力する完璧主義」。もうひとつは 「基準を満たせなかった自分を激しく責める完璧主義」 です。
自炊ができない自分を責めてしまう人は、後者の傾向が強いことが多いです。
「やるなら毎日やらなきゃ意味がない」「中途半端にやるくらいなら、やらないほうがマシ」。そんな「ゼロか100か」の思考が、あなたの足を止めています。
ロンドン大学(UCL)のフィリッパ・ラリーらの研究によると、新しい習慣が定着するまでに平均66日かかるとされています【1】。しかもこの研究では、途中で1日や2日抜けたとしても、習慣の定着率にはほとんど影響がなかったことも示されています。
つまり、「今日できなかった」は失敗ではありません。66日のうちの空白の1日にすぎないのです。
「できたこと」ではなく、「やろうとした心」を数えよう
料理をしようとした、その瞬間が100点
自分を評価するとき、「結果」だけを見ていませんか。
「今日は自炊した」か「しなかった」か。「作れた」か「作れなかった」か。その二択でしかジャッジしていないから、苦しくなるのです。
でも、行動には「結果」の前に「意図」があります。
冷蔵庫を開けて中身を確認した。スーパーで食材を手に取ってみた。レシピを検索した。キッチンの照明をつけた。
どれも「自炊しよう」という意図から生まれた行動です。途中で力尽きたとしても、その意図まで否定する必要はありません。
行動科学者のB.J.フォッグは、新しい習慣を構築するとき、「結果」よりも「行動を起こしたこと」を祝うことが習慣定着の鍵になると述べています【2】。
ご飯が炊けなくてもいいんです。キッチンに足を向けた、あなたのその一歩はすでに100点です。
もっと自分を誇って良い
もう一つ、視点を変えてみてください。
お惣菜を買った。コンビニで弁当を選んだ。冷凍パスタをレンジに入れた。
それらはすべて、「今日の自分にごはんを用意した」という行為です。面倒で投げ出すこともできたのに、あなたはそうしなかった。
「手作りじゃないから意味がない」と思うかもしれません。でも、食事を用意するという行為の本質は、調理方法にはありません。「自分の体にエネルギーを届けよう」と決めたこと。そこにあります。
極端な話、コンビニのおにぎりを2つ買って食べた日だって、あなたは「自分を養う」という選択をしています。
その意志を、もっと認めてあげてください。
ひとりで反省会をするのは、もう終わりにしませんか
「できなかった」を「休憩した」と言い換える場所
自分を責めるクセのある人には、共通するパターンがあります。
「できなかった日」をカウントして、「やっぱり自分はダメだ」という結論に着地すること。まるで減点方式の採点表を自分の中に持っていて、赤点がつくたびに自尊心が削られていく。
でもその採点表は、あなたが自分で作ったものです。そして、採点基準が厳しすぎます。
「今日は自炊できなかった」を「今日は心と体を休ませた」と言い換えてみてはどうでしょう。
事実は何も変わりません。でも、自分にかける言葉が変わるだけで、翌朝の気分は驚くほど違ってきます。
ミシガン大学の心理学者イーサン・クロスは、著書の中でセルフトーク(自分への語りかけ)の仕方を変えるだけで、感情の調整や行動の改善に影響を与えることを示しています【3】。
「自分を責める」の反対は「自分を甘やかす」ではありません。「自分を正確に見る」ことです。
自信がなくても、始められる環境
ここまで読んで、「頭ではわかるけど、ひとりでは難しい」と感じた方もいるかもしれません。
それは正直な反応だと思います。自分を責めるクセは長い年月をかけて身についたもので、記事を一つ読んだだけで消えるものではありません。
だからこそ、自分ひとりで完結させなくていいのです。
習慣を変えたいとき、もっとも大きな力になるのは「意志の強さ」ではなく「環境」です。
シカゴ大学の行動経済学者リチャード・セイラーらが提唱した「ナッジ理論」では、人の行動を変えるには、本人の意志に頼るよりも、自然と望ましい選択をしやすい環境をデザインするほうがはるかに効果的だとされています【4】。
つまり、「頑張る」のではなく、「頑張らなくても続く仕組み」を持つことが大切です。
たとえば、以下のような小さな工夫が、自炊のハードルを劇的に下げてくれます。
- 週末に「切るだけ」の下準備をしておく
- 冷凍カット野菜を常備する
- 味噌と出汁パックだけ用意して「味噌汁だけは自分で作る」と決める
- 帰宅後、靴を脱いだらまずキッチンに立つ
完璧な献立を組む必要はありません。味噌汁一杯で十分です。
そしてもうひとつ。自分の変化に気づいてくれる存在、サボった日にも「でも昨日はできてたよね」と言ってくれる存在がいると、反省会は「振り返りの時間」に変わります。
ハビタスは、習慣化を「意志の力」ではなく「環境の力」で支えるアプリです。 人間のコーチと仲間があなたの行動を見守り、できた日もできなかった日も、フラットに受け止めてくれます。
「また今日もダメだった」と打ち込んだら、「でも3日前は味噌汁作れてましたよね。そっちを見ましょう」と返ってくる。そんな場所があるだけで、自分を責める手は少しずつ止まっていきます。
弱いままでいい。完璧じゃない今日から、また始めればいい。
自炊は、自分を裁くためにあるのではありません。自分を大事にするためにあります。だから、今夜お惣菜を食べた自分を許して、明日の朝、もう一度キッチンの照明をつけてみてください。