健康のために食事を整えたいとき、「塩分を控える」「甘いものを減らす」と、引き算から考えることは多いものです。そこで一緒に見直したいのが、野菜や豆、果物を食べる機会です。
これらの食品には、体に必要なミネラルの一つ、カリウムが含まれています。バナナのイメージが強いかもしれませんが、納豆やほうれん草、じゃがいもなども、日々の摂取源になります。
カリウムを意識した食事は、特別な食品を大量に食べることではありません。減塩を続けながら、いつもの食事に足りない一品を補う。その組み合わせが、研究を日常に生かす出発点になります。
この記事では、成人の普段の食事を中心に考えます。腎臓病などでカリウム制限を受けている人は、食品を増やす前に、医師・管理栄養士の個別の指示を優先してください。
カリウムは、なぜ血圧と関係する?
カリウムは、体内の水分のバランスや、神経・筋肉の働きに関わる栄養素です。ナトリウムの排出を促す働きなどがあり、血圧との関係が調べられています【1】。
2020年には、カリウムの補充と血圧の関係を調べた、4週間以上の無作為化比較試験32件をまとめたメタ解析が公表されました。血圧を下げる効果は、高血圧のある人やナトリウム摂取量が多い人で大きい傾向がありました。一方、増やすほど効果が大きくなるという単純な関係ではありませんでした【2】。
多くは高血圧の成人に補充剤を使った試験なので、バナナ一つの効果にそのまま置き換えることはできません。ここから日常の食事に持ち帰りたいのは、カリウムだけを大量に足すより、塩分と食品の組み合わせを一緒に見直すという考え方です。
食事そのものを変えた試験でも、変化が見られた
食品の組み合わせを考えるうえで参考になるのが、1997年に発表された米国のDASH試験です。成人459人を、野菜・果物・乳製品の少ない対照食、野菜・果物を増やす食事、それに低脂肪の乳製品を加えて脂肪の量や質も調整する食事に無作為に分け、8週間比べました。
体重とナトリウム摂取量を一定に保った条件で、野菜・果物を増やした群は、対照群より収縮期血圧、いわゆる「上の血圧」が平均2.8mmHg低くなりました。低脂肪乳製品なども組み合わせた群では、上の血圧が5.5mmHg、下の血圧が3.0mmHg低い結果でした【3】。
これはカリウムだけの効果を証明する試験ではありません。ただ、減塩や減量とは別に、食卓に何をそろえるかにも、見直す意味があると分かります。
「健康のために何かを我慢する」だけでは献立が寂しくなりがちです。野菜の小鉢、果物、豆のおかずなど、食べるものを整える方向にも目を向けてみましょう。
カリウムの多い食品は?100gより「食べる量」で比べよう
食品のランキングを見るときに気をつけたいのは、比較している量です。乾物100gと果物100gでは、普段の一食で食べる量が違います。含有量が上位の食品を探すより、実際に食べられる量で、どれくらい取れるかを見る方が役に立ちます。
次の表は、文部科学省の食品成分データベースにある可食部100g当たりの値を、食卓で使う量の例に換算したものです。
| 食品 | 100g当たりのカリウム | 食べる量の例 | その量に含まれるカリウム |
|---|---|---|---|
| バナナ・生 | 360mg | 皮を除いて100g | 360mg |
| 糸引き納豆 | 660mg | 40g入り1パック | 264mg |
| ほうれん草・ゆで | 490mg | ゆでた後の重さで70g | 343mg |
| じゃがいも・皮なし・水煮 | 340mg | ゆでた後の重さで100g | 340mg |
出典は、バナナ、糸引き納豆、ほうれん草、じゃがいもの各成分表です。量は取り入れ方の例で、一食の推奨量ではありません。納豆のたれや、料理に加える調味料は含めていません【4】【5】【6】【7】。
たとえば、ほうれん草の小鉢70gは、バナナの可食部100gと近い量のカリウムを含みます。「毎日バナナを食べないと」と考えなくても、好きな食品を組み合わせられるのです。
また、表のほうれん草とじゃがいもは、ゆでた状態の値です。加熱したらカリウムがすべてなくなるわけではありません。 生野菜だけにこだわらず、おひたしや温かいおかずも選べます。
一日にどれくらい必要?目標量は食事全体で考える
日本人の食事摂取基準(2025年版)では、生活習慣病の発症予防を目的とする成人のカリウム目標量を、男性は一日3,000mg以上、女性は2,600mg以上としています。2023年の国民健康・栄養調査では、20歳以上の平均摂取量は男性2,370mg、女性2,190mgで、どちらも目標量を下回っていました【1】。
目標の数字をバナナだけで満たそうとする必要はありません。カリウムは野菜や果物だけでなく、肉や魚、乳製品などにも含まれます【8】。主食・主菜・副菜を組み合わせ、食事全体から取るものと考えましょう。
また、集団の平均が目標を下回ることと、一人ひとりが血液検査で低カリウムになることは別の話です。目標量を一日下回っただけで、欠乏症と判断するものではありません。
数字の計算が負担なら、まず数日分の食事を振り返ってみてください。「果物をほとんど食べない」「昼は麺だけが多い」「豆のおかずがない」。繰り返し抜けている食品が見つかれば、次に買うものを決めやすくなります。
忙しい日も続く、三つの食事の変え方
研究の食事をそのまま再現しなくても、いつもの献立に取り入れる方法はあります。以下は家庭での実践例です。
朝:パンだけの日に、食べ切れる果物を用意する
トーストとコーヒーだけで済ませる日が多いなら、バナナや季節の果物を組み合わせます。朝が慌ただしい人は、包丁を使わず食べられるものや、前日に小分けにしたものを選ぶと手間を減らせます。
すでに朝食を十分に食べているなら、果物をさらに追加するより、いつもの菓子の一部と替える方法もあります。カリウムを増やすために、食事の量まで際限なく増やす必要はありません。
昼:麺やおにぎりに、豆か野菜の一品を合わせる
買って済ませる昼食でも、「主食だけ」で終わる日を減らすことはできます。おにぎりに納豆と野菜の小鉢を合わせる、麺に豆のサラダを組み合わせるなど、作る手間の少ないものから選びましょう。
納豆ならたれは味を見ながら、サラダならドレッシングは少しずつ使います。野菜や豆を選んだうえで、味付けも確かめると、減塩と両立しやすくなります。
夜:野菜の小鉢を、作りやすい形で一つ
夕食がご飯と肉・魚だけになりがちなら、ほうれん草のおひたしや、温野菜のあえ物を組み合わせます。しょうゆを多くかける前に、かつお節、ごま、レモンなどの風味も使ってみてください。
汁物で野菜を食べる日は、塩分との兼ね合いも考えます。カリウムを取ろうとして汁を全部飲むより、具を中心に食べ、味付けを控えめにする方が取り入れやすいでしょう。
一度に三食とも変える必要はありません。「昼は野菜の小鉢を一つ選ぶ」など、よくある食事の場面を一つ決めると、買い物から続けやすくなります。
カリウムを取れば、塩分の取りすぎを帳消しにできる?
カリウムがナトリウムの排出に関わるからといって、塩辛い食事の後に果物を食べれば相殺できる、とは考えないでください。食品に含まれる量から「食塩何gを打ち消せる」と計算することはできません。
目指したいのは、塩分を控える工夫と、野菜・豆・果物を食べる工夫を、同じ食事の中で行うことです。
たとえば、麺の汁は残し、食事に野菜の小鉢を合わせる。納豆にたれとしょうゆを両方たっぷりかける前に、一度味を確かめる。こうした組み合わせなら、カリウムを理由に塩分が増えることも避けやすくなります。
腎臓病や服薬がある場合は、増やす前に確認を
カリウムは誰でも多く取るほどよい栄養素ではありません。腎機能が低下している人や、一部の降圧薬・カリウム保持性利尿薬などを使っている人は、カリウムが体内にたまりやすくなることがあります。食事から取る量も含め、医師・管理栄養士・薬剤師に確認してください【8】。
また、カリウムのサプリメントや、食塩の一部をカリウムに置き換えた代替塩は、食品のおかずを一つ選ぶこととは分けて考えます。特に持病や服薬がある場合は、自己判断で使い始めないでください【8】。
なお、ワルファリンを服用している人は、薬の作用に影響するため納豆を避ける必要があります。本文の食事例より、服薬上の指示を優先してください【9】。
次の一食で、抜けがちな食品を一つ選ぶ
カリウムを意識すると、いつもの食事を「何を控えるか」に加えて、「何を食べるか」から見直せます。
朝に果物を添える。主食だけの昼食に豆や野菜を合わせる。夕食に薄味の小鉢を用意する。自分の食事で抜けがちなものを一つ選び、食べ切れる量から試してみてください。
健康のために献立を大きく作り替えなくても、次の買い物で選ぶ一品から始められます。
※本記事は2026年10月15日時点で確認した研究・公的資料に基づく、一般的な健康・栄養情報です。個別の診断・治療や服薬指示を行うものではなく、特定の食品による疾病の予防・改善効果を保証するものではありません。治療中・服薬中や食事制限がある場合は、医療者の個別の指示を優先してください。





